【オランダ歯科医師免許試験の第2段階・BI-toetsの準備】海外で医療者への道!Vol.10

海外で歯科医師として働く


外国の歯科医師免許所有者が、オランダ歯科医師免許を取得するには、大きく分けて2段階の試験をパスする必要があります。
第1段階はAKV-toets(オランダ語の一般的知識及びオランダ語の技能試験)
第2段階はBI-toets (専門能力試験・職業別の国家試験のようなもの)
の2つです。各段階には、いくつか複数の試験が存在しています。
今回はその第2段階BI-toets(専門能力試験・日本の歯科医師国家試験のようなもの)の準備について記していきます。

目次
1. 準備
2. 試験の(申請から受験までの)流れ
3. 全体的な情報
4. 試験の段取り(要約)
5. 試験情報(内容)

オレンジ色の部分は公式サイトに記載されている説明を日本語に起こしたものです。
それぞれの項目に、白色の文字で私自身の追加説明を加えてあります。

※本記事は2022年3月27日現在の情報及び、筆者自身の経験を元に書かれています。
実際に申請、受験をされる場合には、各自で最新の情報を確認してください。

1. 準備


試験に先立ち受験者は準備をしなければなりません。準備にどのくらいの時間をかけるかは受験者が個人個人で決めることですが、この専門能力試験はAKV-toetsに合格後12ヶ月以内にパスしなければなりません。
臨床前試験(実技試験)の為の練習も準備の一環として該当しますが、義務ではありません。練習のために、タームごとに数日ACTAが解放されます。受験者は規則のもとに、器具と材料を使用して練習することができます。他の試験パートについても教材は利用可能ですが、学習は個人で行い、ACTA以外で場所を見つけてください。

2. 試験の(申請から受験までの)流れ


受験者がAKV-toetsで良い結果を収めた場合、CBGV(Commissie Buitenslands Gediplomeerden Volksgezondheid)からBI-toetsへ招待され、それに基づき、試験費用を期日までに収めなければなりません。この場合、受験者は、ACTAから支払い情報を受け取ります。加えて、受験者は外国の歯科医師免許、身分証明書、支払い情報を通知します。その上で、登録用紙に記入し提出すれば受験の可否がチェックされ申し込み完了となります。受験者はこれに対しコピーを受け取ります。

受験者登録に際して受験者は以下のものを受け取る:

1)BI-toets(専門技能試験)の項目説明
2)知識試験(選択問題、筆記試験)の問題サンプルと症例のサンプル、臨床前試験(実技試験)の判断基準
3)(口頭)問診試験の判断基準
4)臨床前試験(実技試験)の直近の練習可能な日程表
5)登録完了後から12ヶ月間で受験可能な専門能力試験のスケジュール
6)ACTAの学習ガイド(バチェラー+マスター)
7)登録後3ヶ月間利用可能なスタディーウェブ(ウェブ上に存在する教材の揃ったサイトです)のアクセスパスワード
8)必要な全ての情報を利用可能なデジタル環境
9)図書館利用に使用する図書館カード

登録完了後に勉強(練習)期間が始まります。受験者個人が自己責任で練習と試験の計画を立てることが重要です。必ずしも1回目の試験を受験する必要はありません。より多くの練習期間や勉強時間が必要な受験者は2回目の試験を受験しても構いません。1回目の試験を受験する受験者は臨床前試験の練習を行う日程を表明する必要があります。

※ウェブ教材の利用権を与えられるのは、斬新であったと同時に、とても助かりました。しかしながら、このスタディーウェブは、ACTAの学生が利用する物でもあり、数年間分の膨大な量の講義スライドなどが全て詰め込まれているので、何をどう勉強していくかを見極めることがとても大変でした。ほぼカオスでした。

オランダには、日本では豊富に販売されている、いわゆる赤本的な試験対策用の参考書や、問題集が存在しません。探しても売っていないのです。同僚に聞いてもそんな物ないよ、の一言でした。
良質な参考書で、効率よくサクッと全体を学ぶ、みたいなことができないのです。
そこも全て自分で見極めるしかありません。それぞれの教科に該当する分厚い医療書から、自分で苦手な部分や、重要と思われる部分を見極めて勉強しなくてはならず、かなり時間的、精神的ストレスでした。

準備期間内に受験者が十分に準備を完了した際には、自身で試験に申し込みをしてください。

※BI試験事態は、年に2回開催されます。6月と12月前後の2回です。そのうちの好きな方を受ければ良いわけです。受験資格を得てから1年以内に、2回ある機会のうちの、どちらかを受験することになります。
受験資格を得た時点で、試験の準備も万端であれば、近い方の機会で受験すれば良いのですが、そうもいかな場合もあると思います。受験資格を得るまでの準備もかなり大変だからです。

私の場合は、10月頃に受験資格を取得しました。その場合は、直近の12月の試験か、翌年の6月の試験のどちらかを受ければ良いと言うことです。BI試験に対する準備がまだ不十分だった私は、12月の試験はスルーし、翌年の6月の試験に申し込み、枠を獲得しました。
ここで重要なのが、枠の問題です。枠に限りがあるので、間際だと定員割れになる可能性があります。
定員割れになったら試験は受けられません。その辺も注意が必要です。したがって、自分が受けたい方の試験の申し込み期間が始まったら、すぐに申し込むことをお勧めします。

試験開始日の4〜8週間前から申し込みが開始されます。ACTAの“contactpersoon assessment”に申し込み用紙を提出してください。受験者も証明としてコピーを受け取ります。試験開始の少なくとも2週間前に、受験者は個々の試験タイムテーブル(場所・時間)を受け取ります。試験後4週間以内にCBGVより合否発表を受け取ります。

※試験会場は通常は、アムステルダムにあるACTA(Academisch Centrum Tandheelkunde Amsterdam)です。私が受験した時はコロナ禍の真っ只中だったので、実技試験以外は、急遽オンライン試験に変更になりました。

不正の無いように、テスト中は、ウェブマイクとウェブカメラを常時オンにし、トイレへの退席は認められない、というルールで行われました。また、毎試験前に、必ず自分のいる部屋の全貌と、デスクをウェブカメラで写すことが義務付けられていました。試験によっては3時間半くらいの物もあったので、トイレに行きたくならないように、水をあまり飲まないようにするなど、対応が必要でした。

とはいえ、試験は3週間くらいにわたり、中日をとりながら何日も行われるので、その度にアムステルダムまで行くことを考えれば、オンライン試験で本当に助かりました。私の住んでいるマーストリヒトからアムステルダムまでは、電車で片道3時間半はかかるので、その分を勉強に充てられるのは大きかったです。移動の疲れも残らないし、その点においては、不幸中の幸いでした。

3. 全体的な情報


歯科医師の為の専門試験では、近年に卒業したオランダで教育を受けた歯科医師の全カリキュラムに準じて審査します。なぜなら、等試験において申請者のレベルがオランダで教育を受けた歯科医師のそれに同等であることを審査することが重要な事項であり、それはまたBIG登録にも必要とされることだからです。

試験に不合格の場合、トレーニングアドヴァイスを得ることが可能です。この評価とそれによるより評価的な方法で、申請者は必要なレベルに達するためにそして、オランダの歯科医師免許を取得するために働くことができます。

※試験の合否は、複雑な評価方法により、総合的に判断されるようです。合格であれば、歯科クリニックでの3ヶ月ほどの臨床研修を修了すれば免許登録となります。

不合格の場合は、トレーニングアドヴァイスというシステムが機能します。これは、点数が不十分であった項目に関して、ACTAなどで講習を受け、レポートを提出したり、通常より長く臨床研修を積むことが課せられたり、と言うような、いわゆる補修プロセスが与えられるシステムのようです。

それでも、下回ってはならない点数のボトムラインは設定されています。それを下回ると他が良くても、一発不合格となるとのことです。その場合は、また第一段階のAKV試験から、やり直さなくてはなりません。

4. 試験の段取り(要約)


申請者はまずAKV試験をパスしなくてはなりません。その後、専門試験BI-toetsに合格しなくてはなりません。当試験はオランダ歯学部のマスター課程の最終試験に基づいています。これによって、申請者の能力とオランダの歯科医師に課せられているクオリティーを客観的に比べることができます。アドヴァイス面談は申請者とCBGVのメンバー間で行われます。

5. 試験情報(内容)


専門能力試験(BI-toets)は年に2回、ACTA(het Academisch Centrum Tandheelkunde Amsterdam)によって行われます。ACTAはアムステル大学と自由大学との連盟機関です。

BI-toetsは以下の4部門からなります。

1)セオリー:医学基礎知識、放射線科学、歯学1、歯学2
2)臨床前試験:歯牙清掃、歯牙切削(窩洞形成/う蝕処置)、3歯ブリッジの形成、2根管の根管治療
3)問診:指定された患者の問診(模擬患者)
4)診断、説明、治療方針の立案:臨床ケース試験は、総合的な歯科知識、分析能力、解決能力を評価する試験です。受験者はいずれかの治療に関する2人分の患者の臨床ケースに答える必要があります。

AKV試験とBI試験の詳しい内容についてはこちらの記事を参照ください↓


一番困ったことは、日本でお馴染みの赤本的な問題集や、テキスト本が一切ないと言うことでした。
優秀な参考書文化で育った私としては、少々戸惑いました。
言わずもがなですが、知識パートの範囲がとにかく広いわけです、、、
こんなの8ヶ月で復習できるだろうか?しかも外国語で、、、と言うのが正直な思いでした。
それでも、やるしかないので、なんとかやって、なんとかなった。と言うところです。

実技試験は、Simodontと言う、3Dのバーチャル切削トレーニング機を使用して行われます。
かなり良くできていて、本物の歯を削っているような手の感覚も、かなり忠実に再現されていました。
もちろん練習期間が設けられているので、試験前に感覚に慣れておくことができます。
これはとても面白くて、新しい経験でした。


移民や難民の修学や資格取得を支援しているUAFのサイトにもオランダ歯科医師資格取得の準備に関するページがあります。UAFのサイトには以下の本がオススメとして紹介されていました。

Volksgezondheid & Gezondheidzorg | Mackenbach

Algemene ziekteleer voor tandartsen | ISBN 9789031387281

Endodontologie | ISBN 9789031373765 (derde herziene druk)

Mondziekten, kaak en aangezichtschirurgie | ISBN 978903135321

Handboek Communicatie in de Mondzorg | ISBN 9789085621492

全ての本を、隅々まで目を通すことは、時間的には厳しいと思います。外国語で書かれた本なので、読むのにも時間がかかります。日本の歯科教本をもとに、ザーッとおさらいをして、弱点部分をオランダ語や英語の本で、集中的に補う勉強法で対応しました。

自分で考え、自分で問題点を見つけ、自分で解決していく。まさにオランダの教育方針を、歯科医師免許取得試験を通じて、肌で感じました。

やってやれないことはない。がんばりましょう!

海外で医療者として働くための道!シリーズの記事はこちらから↓
http://www.chiptankoyama.com/category/海外で歯科医師として働く/

↑私がイラストを担当した抜歯本です。イラストが豊富でわかりやすい内容になっています。

歯科医師用のBI試験に関する、詳しい説明のPDFがこちらのサイトからダウンロードできます。